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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)4807号 判決 1978年10月26日

原告

石川美紀

ほか一名

被告

首都高速道路公団

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告石川美紀に対し金九七二万二六六七円、原告石川きよに対し金四八六万一三三三円及び右各金員に対する昭和四七年六月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外亡石川雄(以下亡雄という。)は昭和四六年九月六日午後七時四三分ころ、普通乗用自動車(横浜五ら五一四号、以下原告車という。)を運転し、東京都大田区東糀谷四丁目七番地先の首都高速道路一号線の下り車線を進行中、上り車線を進行中の訴外(分離前の被告)松塚清運転の普通貨物自動車(練馬一な五三二二号、以下松塚車という。)が中央分離帯を越えて下り車線に乗り入れたため、原告車に衝突し、その衝撃により亡雄は頭蓋内損傷の傷害を負い、同月七日午前五時三五分ころ死亡した。

2  責任原因

被告は首都高速道路の管理者として、通行料金後払の約で右高速道路を一般の利用に供しているものである。ところで、亡雄は本件事故当日勤務先から帰宅するため、右高速道路霞が関ランプから東神奈川ランプに向け首都高速道路一号線の下り車線に入つたものであるから、その際亡雄と被告との間に亡雄が霞が関ランプから東神奈川ランプまでの高速道路通行契約が成立したもので、被告において通行料金を徴収することからも、右通行契約にもとづき被告は右道路を通行する車両の安全を図り、道路上の障害物の除去、中央分離帯上のガードレールの保守、点検、修理、維持等通行に危険のないよう十分道路の安全を管理すべき義務を負うものというべきである。しかるに被告は、本件事故当時工事のために事故現場附近の高さ二五センチメートルの中央分離帯のコンクリート部分をこわして鉄筋を露出させ、さらに約三三・六メートルにわたつてガードレールを撤去して、中央分離帯としての機能を失わせ、これに代わるべき防護柵、及び工事中であることを示す標識、ランプ等を設置することなく、漫然と放置し、それがために本件事故が発生したものであるから、被告に前記通行契約にもとづく債務の不履行があつたものというべきである。

また、被告は右高速道路の設置管理者として、右道路に前記のような瑕疵があつたにもかかわらず、これを知りながら放置したために本件事故が発生したものであるから、国家賠償法二条一項もしくは民法七一七条により右事故による後記損害を賠償すべき義務がある。

3  損害

(一) 車両損害

原告車は、亡雄が昭和四一年六月二九日金四三万九〇〇〇円で購入したものであるが、本件事故により使用に耐えなくなつたもので、右自動車の耐用年数を六年として、残存割合を一〇〇分の一〇、定率法による償却率を〇・三一九として原告車の本件事故当時の価格を算出すると金六万四〇〇〇円となる。

(二) 逸失利益

亡雄は、本件事故当時訴外日本鉄道建設公団に勤務し、本件事故の前年である昭和四五年は金二〇七万七九〇四円の収入を得ていたが、同人は事故当時四三歳で、本件事故により死亡しなければ六〇歳まで今後一七年間は少なくとも右と同程度の収入を得られた筈であるから、右金額から同人の生活費として右収入の四割三分五厘を、またホフマン方式により年五分の割合による中間利息をそれぞれ控除し、死亡後六〇歳に至るまでの同人の逸失利益の現価を算出すると、金一四一七万八四七四円となる。

(三) 原告石川きよは亡雄の妻、同石川美紀は同人の長女であり、いずれも同人の相続人であるが、亡雄の死亡により、同人の(一)、(二)記載の損害賠償債権を法定相続分に応じ取得した。

(四) 慰藉料

原告らは夫であり、父である亡雄の死亡により多大の精神的苦痛を受けたが、右苦痛を慰藉するには原告らそれぞれにつき金二〇〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用

原告らは原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を依頼し、着手金及び謝金として金一三四万一五二六円の支払を約したが、右金銭をいずれも前記法定相続分の割合に応じ、原告石川美紀においてその三分の二である金八九万四三五一円、原告石川きよにおいてその三分の一である金四四万七一七五円をそれぞれ負担することになつている。

(六) 損害の填補

原告らは、亡雄の死亡により自動車損害賠償責任保険から金五〇〇万円の支払を受け、前記法定相続分に応じ原告らの各損害に充当した。

4  結論

よつて、被告に対し原告石川美紀は金九七二万二六六七円、原告石川きよは金四八六万一三三三円及び右各金員に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四七年六月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、亡雄が原告車を運転中、原告ら主張の日時場所において上り車線を走行してきた訴外松塚運転の松塚車が中央分離帯を乗り越えて原告車の走行していた下り車線に進入してきたため同車と衝突し、その衝撃により頭蓋内損傷の傷害を負い、昭和四六年九月七日午前五時三五分ころ死亡したことは認める。

2  同2の事実中、被告が首都高速道路を設置、管理し、通行者から料金を徴収し、右道路を一般の通行に供していたこと、亡雄と被告との間で通行契約が成立していたこと、本件事故当時現場附近の中央分離帯上のガードレールが約三三メートルにわたつて撤去されていたことは認めるが、その余は争う。

本件首都高速道路一号線は標準幅員一六・五メートル、四車線(片側二車線)、設計速度時速六〇キロメートルで、中央に分離帯が設けられていたが、当時現場は約三三メートルにわたり、中央分離帯上のガードレールが破損していたため、昭和四六年八月一三日から同年九月八日までの工期で、訴外日本ハイウエイサービス株式会社に補修工事を請負わせ、工事の施行中であつた。右工事は交通量の少ない午後一〇時から翌朝七時まで施行することとし、工事施行時間外の安全管理については黄色点滅燈、ラバーコーン等を設置して通行車両に対して工事中である旨注意を喚起し、本件事故時にもそれらの措置をとつていたのみならず、本件事故現場附近には照明燈が約四七メートル間隔で道路の両側に設置され点燈されていたのであるから運転者にとつて前方の視界はよく、降雨時においても一〇〇メートル前方の障害物の発見が可能であつた。また、本件現場附近の中央分離帯上のガードレールは補修工事中であつたものの、幅六〇センチメートル、高さ二五センチメートルのコンクリート製の中央分離帯は工事のためコンクリートの覆いが一部撤去され、鉄筋は露出していたが、鉄筋自体には構造等に変化はなく、しかも右撤去されていたのは右半分のみであり、中央分離帯の機能を果していた。本件事故は、訴外松塚が降雨のため路面が濡れていたにもかかわらず、時速七〇キロメートル以上の速度で走行していたところ、本件現場附近で先行車がブレーキをかけたのを発見し、急ブレーキをかけるとともに先行車との追突を避けるため、右にハンドルを切つたためにガードレールに激突したうえ中央分離帯を乗り越えて原告車と衝突したものである。右のように、本件事故は、道路の設置管理の瑕疵にもとづくものではなく、もつぱら訴外松塚の重過失により惹起されたものであり、したがつて、被告に通行契約にもとづく債務不履行はなく、国家賠償法二条一項、民法七一七条にもとづく責任もない。

3  同3の事実中、亡雄が本件事故当時四三歳で、訴外日本鉄道建設公団に勤務していたことは認めるが、損害についての主張は否認し、損害補填の点は不知。

第三証拠〔略〕

理由

一  昭和四六年九月六日午後七時四三分ころ、東京都大田区東糀谷四丁目七番地先の首都高速道路一号線下り車線を、亡雄が原告車を運転して走行していたところ、上り車線を走行してきた訴外松塚運転の松塚車が中央分離帯を乗り越えて下り車線に進入してきたため同車と衝突し、その衝撃により亡雄が頭蓋内損傷の傷害を負い、同月七日午前五時三五分ころ死亡したこと、被告が本件高速道路を設置・管理し、通行者から料金を徴収し、右道路を一般の通行に供していること、本件時被告と亡雄との間に通行契約が成立していたことは、いずれも当事者間に争いがなく、また被告が右通行契約にもとづき道路の安全を管理すべき義務を負つていたことは弁論の全趣旨からして被告も争つていないものと認められる。

二  原告らは、被告において右義務の不履行があつたと主張するのに対し、被告はこれを争うので、その点については判断する。

成立に争いのない甲第一ないし第五号証、乙第一号証、被告主張のような写真であることについて争いのない(乙第二号証が昭和四六年九月六日撮影されたものであることは弁論の全趣旨によりこれを認める。)乙第二号証、第三号証の一ないし三、証人品川光規の証言、原告石川きよ本人尋問の結果を総合すると、首都高速道路一号線は東京都台東区上野から同都大田区羽田までの二二キロメートルにわたる自動車専用道路で、本件現場附近は地上から約一〇メートルの高さに位置する高架道路で、上、下各車線とも幅員七・六メートルでいずれも二車線に区分され、一車線の幅員は三・五メートルであつたこと、上、下車線は幅六〇センチメートル、高さ二五センチメートルの鉄筋コンクリート製の中央分離帯によつて分離され、さらに右中央分離帯上には高さ〇・五メートルの支柱によつてガードレールが設置されていること、また約四七メートル間隔で道路の両側に千鳥状に白色水銀燈が設置、点燈され、夜間降雨時でも約一〇〇メートル前方の見通し可能なこと、そして速度は時速六〇キロメートルに制限されていたこと、そして、当時事故現場附近のガードレールが破損したため被告において訴外日本ハイウエイサービス株式会社に本件事故現場附近の中央分離帯の補修工事を請負わせ、同訴外会社において右工事を昭和四六年八月一三日から同年九月八日までの予定で施工中で、現場附近は本件事故当時三三・六メートルにわたつてガードレール及びその支柱が撤去され(本件事故現場附近の中央分離帯上のガードレールが約三三メートルにわたり撤去されていたことは当事者間に争いがない。)、同部分の鉄筋コンクリート製の中央分離帯のうち下り車線側のコンクリートの覆いが剥がされ、鉄筋が露出していたが、上り車線側はそのままであつたこと、右補修工事は毎日午後一〇時から翌朝七時までの間に行われ、右作業時間内は二車線の上り車線上に工事区間の手前一五〇メートルの地点から工事区間方向に向かつてラバーコーンを三ないし五メートル間隔で順次斜めに置いて、次第に走行車線を狭ばめ、工事区間では一車線のみを走行させていたほか、工事現場の手前二五〇メートルの地点に工事中である旨を表示した標識を、同じく一五〇メートルの地点には右同様の標識及び赤色回転燈を、工事区間では五、六メートル間隔でラバーコーンと黄色点滅燈を置いて、運転者に注意を喚起し、作業時間外である午前七時から午後一〇時までの間は、工事区間の中央分離帯上にラバーコーン及び黄色点滅燈を置いて運転者に注意を喚起するにとどめ、走行自体には制限を加えず、本件事故時も右作業時間外における措置と同一の措置をとつていたこと、本件事故は訴外松塚が松塚車を運転し、本件事故現場附近の上り車線の中央寄り車線を時速約六、七〇キロメートルで進行中、約三二・三メートル前方を走行中の先行車がブレーキをかけるのを発見して、訴外松塚においてもブレーキをかけたところ、折からの降雨のため路面が湿潤していたこともあつて、松塚車がスリツプし、撤去されなかつたガードレールの端に衝突したうえ前記ガードレールの撤去部分から中央分離帯を突破して下り車線に飛び込み、下り車線の中央寄り車線を走行していた原告車と衝突したものであること、もともと中央分離帯及び中央分離帯上のガードレールは上、下車線を分離するとともに、運転者の視線を誘導し、安心感を与える役割を果すとともに、車が車線外に逸脱するのを阻止する役割をも果しているが、車が中央分離帯に衝突する角度、車の速度及び重量等によつては車の逸脱を防止することができない場合もあること、そして、本件の場合松塚車は車両自体の重量が六・四六五トンで、前記のように時速六、七〇キロメートルの速度で直角に近い角度で中央分離帯に激突していること、本件事故当時本件事故現場附近の路面は降雨のため湿潤していたものの路面等に異常はなく、車の走行自体に影響を及ぼすと考えられるものは何もなかつたことが認められる。

以上認定の各事実特に本件事故当時現場附近の中央分離帯のコンクリートの覆いが剥がされ、ガードレールが撤去されたままで代替設備が設けられていなかつたが、右は工事のためで、もともと工事等のためガードレールを撤去した場合それに代り得る設備を設けることが困難であることは容易に考えられるところであり、しかも右コンクリートの覆いの剥がされていたのも片側だけで、剥がされた側も鉄筋はそのまま残つており、工事区間にはラバーコーン及び黄色点滅燈を置いて車両運転者に対する注意喚起の措置も一応講じられていたことを考慮するならば、本件事故が松塚車のガードレールの撤去部分からの飛び込みによつて発生したものではあるが、右中央分離帯の一部き損ならびにガードレールの撤去及びそれに代るべき防護柵を被告において設置していなかつたことをもつて直ちに被告において前記通行契約にもとづく安全管理義務につき不履行があつたとすることはできず、本件事故はもつぱら訴外松塚の速度超過、車間距離不保持及びブレーキ操作の誤りによつて発生したものと認めざるを得ない。

原告らは、本件事故は被告が首都高速道路の設置、管理者として、その設置、管理に瑕疵があつたために発生したのであるから国家賠償法二条一項もしくは民法七一七条により原告らの損害を賠償すべき義務がある旨主張する。しかしながら、前記認定事実からするならば、中央分離帯を一部取りこわすとともにガードレールを撤去し、それに代るべき設備を設置していなかつたからといつて、そのことをもつて直ちに本件道路の設置、管理につき瑕疵があつたということはできないものというべきである。

三  以上の次第であるから、原告らの被告に対する本件請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 片桐春一 金子順一)

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